ロマンを求めて

 無い!無い!早朝に出発し4時間、たどり着いた徳島の山中、頭の中は常にその影を渇望していた。
初日、賀母川谷にてそれを探す3人。不確かな80年前の文献を頼りに遠征してきたシダ狂である。無いものを探すというのは徒労であり、並みの人間はやりたがらない。しかし、もしあったとしたら。もしそれが眼に入ったら。そんな妄想に憑りつかれて、気がつけば谷の入り口に立っていた。もともと棚田だったのだろうか、灌木の茂る小道から入渓し、石灰岩質の白い巨岩が両脇に迫っているのを観たときは、もうこれは見つかってしまうのではないかと心が躍った。渓谷の一段上の林床にはクリハランが多く、谷筋にかけてミヤマノコギリシダの類が群生している。底の岩上にはイワヒトデが多い。谷に入ってすぐの岩壁にはヌカイタチシダやシシラン、クルマシダなどが出ている。海成層にややチャートの露頭がある感じ。徐々に険しくなる谷を詰めていくと、ツクシノキシノブの大変大きな個体が古木に着生していた。湿度も良い。イケる!テンションは高いのだが、肝心の目的は姿を現さない。そうやって徐々に谷は乾燥していき、すぐ上段にウラジロが出てくるようになってからは底にはコモチシダ、ヒトツバなどやや乾いたところのシダが増えてきた。ちょうど丹波の谷をワクワクしながら詰めていくと宝塚の谷になった気分である。この辺りはもう雰囲気が無く、さらに詰めてもとうとう谷が浅くなって、両側が河原状になってきた。ナチシダやオオバノイノモトソウも出てきて、すぐそばを通る登山道沿いにはレモンエゴマがうんざりするほど生えている。不思議な高揚感を常に抱えた山行の終わりを、否応が無く自覚させられる。谷から登山道へ上がり、上から木々の上部に着いていないか俯瞰するけれど、マメヅタやノキシノブしか眼に入らない。予想が外れたことは大変悔しいが、環境は狙い通りであった。ビロードシダが生えるような環境を想像していたが、フジシダのような朝霧に依存する、乾きながらも根は湿る岩壁なのだろうか。そういった場所はあるのだろうか。iNaturalistの投稿を見る限り、カラカラの露岩に出るとはやはり思えないのだ。明日、2日目の探索はより標高を上げてみる。胸の高鳴りは収まらない。

コメント