コウラボシ

 コウラボシは内山富次郎が1900年12月12日に奄美大島Uragami村より採取した標本に基づいて、1906年に牧野富太郎が植物学雑誌上で記載 (Makino 1906) した種である。当該記載論文には高知の室戸岬において吉永虎馬が1905年8月に採取した標本も引用されている。本種については倉田 (1955) において「極めて多型な種類」と表現されており、各地の主要標本が列記されているが、細葉型と広葉型に大別して表記されている。ここで、広葉型はホテイシダやツクシノキシノブに似てくる旨の言及がある。奄美大島のタイプ標本は細葉型とされており、また盾状鱗片に関しても広葉型は卵状三角形であるのに対し、細葉型は牧野の原記載通り披針形から線形であると記されている。さらには広葉型と細葉型では「地理分布上も異なる様である」と指摘されている。なお、同論文にて伊藤洋の日本羊歯類図鑑 (1944) のコウラボシの図はノキシノブの1型ではないかと疑義が呈されている。後の倉田 (1965) においては特段広葉型と細葉型に言及せず、「極めて多形」な旨を述べた上で主要標本を列記している。
 2015年に芹沢俊介は『しでこぶし』において海岸の岩場のようなところではなく、低地の石垣等に出現する、ハビタットを異にする型を、当該ハビタットの違い、形態的差異および倍数性の違いを以てイシガキウラボシとして記載した (原著未参照)。さらにFujiwara et al. (2022) では葉緑体DNAと核DNAマーカーを用いた分子的なアプローチによって、イシガキウラボシがホテイシダとコウラボシの雑種起源の異質4倍体であることを報告している。コウラボシとイシガキウラボシが倉田の指摘した細葉型と広葉型に対応しているのかは不明であるが、Fujiwara et al. (2022) においては奄美大島および室戸岬のコウラボシのサンプルを用いており、両者は同クレードにまとまっている。室戸岬の一部サンプルのみハプロタイプに若干の違いが見られたようであるが、奄美大島のサンプルとハプロタイプが一致する室戸岬のサンプルもあり、この異同に関しては特に問題としないものとする。
 さて、コウラボシに興味を持った私は、細葉型として倉田 (1955) に挙げられていた高知県の産地を訪ねてその個体群の撮影に成功したためここにまとめておく。なおこの産地はFujiwara et al. (2022) において用いられたサンプルと同一の地域のものであるため、Fujiwara et al. (2022) にも準ずるものとして取り扱う。


特定一般称 (倉田・藤原) 「コウラボシ」

 本産地では明らかにノキシノブと判断すべき個体群も見られたため、本産地はコウラボシとその他ノキシノブの類の混生地と判断するべきである。武井雅宏 (1974) では、2倍体ノキシノブについて「海岸の波しぶきをかぶる岩上にも稀れに生育していた」とあり、下記リンクで非コウラボシとしたもののうちノキシノブ的なものは2倍体のそれではないかと推測する。益山樹生ら (1987) の研究では2倍体ノキシノブは他の倍数体に比して限られた分布を示す旨言及されており、私は前々から確かな2倍体ノキシノブも観ておきたいと考えているため、情報をお持ちの方はご教示願いたい。今回発見できた本産地の個体群について、コウラボシと非コウラボシで大雑把に分けたものをGoogle Driveにアップロードしておいた。コウラボシのファイルに入っているものは私がコウラボシであろうと判断したものであるが、誤りがあった場合はご指摘願いたい。以下のリンクから誰でも自由に閲覧できる。

・特定一般称「コウラボシ」画像
https://drive.google.com/drive/folders/15V4hL92TIae8R22mPFtJUBfMxRYhMZS4?usp=sharing
・称を指定せず、同一産地の”非コウラボシ”画像
https://drive.google.com/drive/folders/1dYFjlN2xuLx98mGl-d2gWwTzNRcUQ5Nt?usp=sharing

(参考)
・植物学雑誌  Bot. Mag. (Tokyo) 20(229): 30, 1906.
・北陸の植物 4巻2号 「シダ類ノート (5) 」 倉田悟 (1955)
・Sience Report of the Yokosuka City Museum No. 11, 1965 「日本のノキシノブ属」 倉田悟
・植物研究雑誌 49巻12号 「ノキシノブの倍数体について」 武井雅宏 (1974)
・植物研究雑誌 62巻11号 「ノキシノブの種内倍数体の研究 (3)」 益山樹生ら (1987)
“Establishment o;;f an allotetraploid fern species, Lepisorus yamaokae Seriz., between two highly niche-differentiated parental species” Fujiwara et al. (2022)

(編集履歴)
2024年1月8日公開
2024年1月9日訂正 私自身がコウラボシとノキシノブを完全に誤解していたため、初版ではコウラボシをノキシノブと、ノキシノブをコウラボシと紹介してしまっていました。ご指摘を受け訂正いたしました。

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