新釈 オオシラガタンポポ

本稿では植物研究雑誌11巻8号 (1935年8月25日) 566頁 “日本産タンポポ属の新種(其三)” (小泉秀雄) に準拠する。これは記載論文である。

オオシラガタンポポ Taraxacum uianum H. KOIDZUMI

(分布) 紀伊:西牟婁郡串本

T. candidum H. KOIDZUMI (シラガタンポポ) に似る。しかし全株は約16 cmで、葉や花はより大きい。花は黄色。根について、根頭は双頭、頸部には黒鱗がわずかに付く。葉について、全体として斜上~亜直生する。無毛であるが、主脈には軟毛が生える。長くて広い翼状の葉柄。裂片は多少反曲し、縁はほぼ全縁で、頂裂片は三角形。花茎は長さ約15 cm、3-16 cm。頭花は幅は2.5-3 cm。基部は広半卵形。総苞片は鮮やかな緑色で、角状突起は無いか、小さい角状突起がある。総苞外列片はたいてい半ば反曲し、まれにやや半ば厭伏する。披針形ー長楕円状披針形、長さは内片の2/3に及ぶ。縁は無毛、まれに粗く軟毛が生え、縁に明瞭な淡い透明の膜がある。花冠毛は粗または非常に粗に生え、鋭頭。細胞毛は普通1細胞から成るが、まれに2-4細胞から成る。果実は淡褐色、藁色の場合もある。果頭は円錐形で、節がある。果体は深い2溝、しばしば深い3溝がある。果脚は下方に非常に微細な棘を葺き、特に両側に1列の微細な棘を葺く。花冠托は倒円錐形または円盤状円錐形で、しばしば細歯がある。冠毛はやや純白色または極淡い白褐色。しかし基部は淡い黄褐色になる。長さは5~6 mmである。その他の特徴はT. candidum H. KOIDZUMI (シラガタンポポ) と同様。

【考察】
本種は北村 (1957) では未知の種 (Species mihi ignotae) として特に言及されなかった5種の内の一つである。小泉の和名や記載文からはシラガタンポポに似ることが窺えるが、北村体系で重視されている総苞片の特徴で言えば確かにヒロハタンポポとは言い難い。標本を見るに、葉柄がかなり長いことが一つの特異な点かもしれない。現串本町は非常に広大な行政単位であるが、記載時1935年以前は潮岬の付け根、串本駅周辺を中心とした西牟婁郡に属する範囲であったことには注意されたい。和歌山県におけるタンポポ調査でこの地域から採られたデータをよく参照する価値があるように思う。多少厄介なのは、1924年に旧富二橋村が旧串本町に編入されており、これによって捜索すべき範囲が山側に大分膨れることである。端的に、記載当時の「串本」とは旧串本村と旧富二橋村の総和である。総苞片が反り返る特徴から、タンポポ調査では反り返りが2-4の区分で判定されているものと考えられ、「セイヨウタンポポ」か、あるいは「外来種 (形態的に雑種とみられる)」に含まれている可能性が高い。現状総苞片が反り返るものは、特に本土では外来種として判定されており、それに従えば本種は外来種群のひとつか、雑種なのだろうと推察する。総苞片が稀に厭伏するという記述や冠毛の色から、シラガタンポポとセイヨウタンポポの雑種かしらと妄想を膨らませる。興味深いことにタンポポ調査において和歌山県では稀なトウカイタンポポが現串本町で記録されており、トウカイタンポポとセイヨウタンポポの雑種という線は無くはない。

1)
●Species T. candidum H. KOIDZUMI affinis, sed planta circ. 16 cm. alta,
▲しらがたんぽぽニ近似スルモ花葉ヨリ長大、高16 cm.内外
T. candidum H. KOIDZUMI (シラガタンポポ) に似る。しかし全株は約16 cmで、葉や花はより大きい。
2)
●flores flavi;

■花は黄色。
3)
●Radix biceps, collo leviter nigrisquamato;
▲根ハ双頭、黒鱗粗着
■根について、根頭は双頭、頸部には黒鱗がわずかに付く
4)
●folia ascendentia-suberecta ; glabra sed in nervis medianis pilosa, longe late alato-petiolata,
▲葉ハ斜上ー亜直生、主脈有毛以外無毛、広翼長柄
■葉について、全体として斜上~亜直生する。無毛であるが、主脈には軟毛が生える。長くて広い翼状の葉柄。
5)
● lobis plus minus recurvatis margine fere integris, lobo terminali deltoideo
▲裂片ハ多少逆向、概全縁、頂裂片ハ三角形
■裂片は多少反曲し、縁はほぼ全縁で、頂裂片は三角形。
6)
●scapi circ. 15, 3-16 cm longi,
▲花軸凡15, 3-16 cm 長
■花茎は長さ約15 cm、3-16 cm。
7)
●capitula 2.5-3 cm. lata, basi late semiovata;
▲頭花ハ径2.5-3 cm、広半卵底
■頭花は幅は2.5-3 cm。基部は広半卵形。
8)
●involucri foliola læte viridia, ecorniculata vel parvi-corniculata
▲総苞片ハ濃緑、無角又ハ有小角
■総苞片は鮮やかな緑色で、角状突起は無いか、小さい角状突起がある。
9)
●sq. exteriores fere reflexæ raro subadpressæ, lanceolatæ-oblongo-lanceolatæ, interiorum longitudinis 2/3 attingentes, margine glabræ, raro parce ciliatæ et distincte pallide hyalino-membranaceæ ;
▲同外列片ハ概半反捲、稀稍半厭伏、披針形ー長楕円状披針形、内列片ノ2/3長内外、無毛縁稀極粗毛縁又透明膜縁
■総苞外列片はたいてい半ば反曲し、まれにやや半ば厭伏する。披針形ー長楕円状披針形、長さは内片の2/3に及ぶ。縁は無毛、まれに粗く軟毛が生え、縁に明瞭な淡い透明の膜がある。
10)


■(註:内裂片に言及なし)
11)
●cilia corollarum sparsiore v. sparsissime obtecta , cellulis vulgo 1 raro 2-4 compositis
▲花冠毛ハ粗ー極粗生、鋭頭、概単細胞毛稀2~3細胞毛
■花冠毛は粗または非常に粗に生え、鋭頭。細胞毛は普通1細胞から成るが、まれに2-4細胞から成る。
12)
●achenia pallide brunnea v. straminea,
▲痩果ハ淡褐又藁色
■果実は淡褐色、藁色の場合もある。
13)
●capita conica
▲果頭ハ円錐形、有節
■果頭は円錐形で、節がある。
14)
●truncis 2 sæpe 3 profunde sulcatis
▲果体ハ2~3溝、
■果体は深い2溝、しばしば深い3溝がある。
15)
●peditibus inferiore minutissine aciculatis præcipique in utroque latere uniseriali minute aciculatis
▲果脚ハ下方有極微刺特ニ両側有1列微棘、
■果脚は下方に非常に微細な棘を葺き、特に両側に1列の微細な棘を葺く。
16)
●receptacula obconica v. discoideo-obconica sæpe denticulata,
▲冠毛托ハ倒円錐形又有盤倒円錐形、屢々有縁微歯、
■冠毛托は倒円錐形または円盤状円錐形で、しばしば細歯がある。
17)
●pappus candidus v. pallidissime albo-brunneus sed basi pallide luteo-brunneus. 5-6 mm. longus
▲冠毛ハ稍純白色又極淡褐白色、而シテ基脚ハ淡黄褐色、長5~6 mm.
■冠毛はやや純白色または極淡い白褐色。しかし基部は淡い黄褐色になる。長さは5~6 mmである。
18)
●ceterum ut in T. candido.
▲其他ハしらがたんぽぽト同様。
■その他の特徴はT. candidum H. KOIDZUMI (シラガタンポポ) と同様。

【標本】
https://type.kahaku.go.jp/TypeDB/list?cls=vascular&pn=1&facet=&refind=1&dispnum=10&VARIANT=1&c3_f=taraxacum&secIdx=0&ANDOR=0&DISPVIEW=matrix&chkCls=vascular&n1_f=&n2_f=&n3_f=uianum&n4_f=&n5_f=&n6_f=&n7_f=&n8_f=&n9_f=&n10_f=&n11_f= (科博データベース)

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