本稿では植物学雑誌40巻479号 (1926) 576頁 “Notulæ ad Plantas Japoniæ & Koreæ XXXIII” (中井猛之進) に準拠する。これは記載論文である。
ヒロハタンポポ Taraxacum longe-appendiculatum NAKAI
(分布) 伊豆 : 熱海
葉は倒披針形または箆状倒披針形で、葉柄は楔型に沿下し、長さ3-7 cm。葉縁は波状縁または歯牙状縁。葉面表面は緑色で、当初まばらに白毛を葺き、次第に無毛になる。主脈は隆起する。葉面裏面の主脈と側脈は隆起し、有毛。先端は丸みを帯びた微凸頭。花茎の先端にはクモ毛が生える。総苞片はほぼ2列に並ぶ。総苞外列片は披針形または卵状披針形で長さ6-8 mm。付属体は扁平な袋状の距のようなもので、外見で半鏃形の袋は長さ3-6 mm。総苞内列片は長さ12-13 mmの披針形ー突錘状で、先端は三角形の付属体がある。舌状花は黄色で背面に紫条が入り、長さ7-8 mm。筒部の長さは6-7 mm。花冠毛は白色でやや等長。痩果は背腹に扁平な紡錘形で、長さ4 mm。背面に2つの肋があり、腹面には3つの肋が1本の肋に結合し、中間から上部、特に先端はざらつく。嘴部は長さ6-7 mm。冠毛はたいてい白色で、長さ6 mm。
Fola oblanceolata vel spathulato-oblanceolata in petiolem 3-7 cm. longum cuneato-decurrentia margine repanda vel denticulata supra viridis primo sparse albo-hirtella glabrescentia costis elevatis, infra costis et venis elevatis, hirtella, apice rotundato-mucronata.
葉は倒披針形または箆状倒披針形で、葉柄は楔型に沿下し、長さ3-7 cm。葉縁は波状縁または歯牙状縁。葉面表面は緑色で、当初まばらに白毛を葺き、次第に無毛になる。主脈は隆起する。葉面裏面の主脈と側脈は隆起し、有毛。先端は丸みを帯びた微凸頭。
Scapus apice araneus.
花茎の先端にはクモ毛が生える。
Involucri squamae subbiseriales,
総苞片はほぼ2列に並ぶ。
exteriores lanceolatae vel ovato-lanceolatae 6-8 mm. longae, appendice compresso-saccatocalcarata, sacco facie semisagittata 3-6 mm. longa,
総苞外列片は披針形または卵状披針形で長さ6-8 mm。付属体は扁平な袋状の距のようなもので、外見で半鏃形の袋は長さ3-6 mm。
interiores 12-13 mm. longae lanceolato-subulatae apice triangulari-appendiculatae.
総苞内列片は長さ12-13 mmの披針形ー突錘状で、先端は三角形の付属体がある。
Ligulae flavae dorso purpureo-striatae 7-8 mm. longae, tubo 6-7 mm. longae,
舌状花は黄色で背面に紫条が入り、長さ7-8 mm。筒部の長さは6-7 mm。
pappo albo subaequilongo.
花冠毛は白色でやや等長。
Achenia dorsi-ventrali compressofusiformia 4 mm. longa dorso 2 costata, ventre costulis tribus in uno conjugatis 1-costata supra medium praecipue apice scabra, rostro 6-7 mm. longo.
痩果は背腹に扁平な紡錘形で、長さ4 mm。背面に2つの肋があり、腹面には3つの肋が1本の肋に結合し、中間から上部、特に先端はざらつく。嘴部は長さ6-7 mm
Pappi fere albi 6 mm. longi.
冠毛はたいてい白色で、長さ6 mm
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(中井氏付言)
I found this dandelion at Atami, the famous hot-spring resort ; whence I brought back to the Koishikawa Botanic Garden 9 years ago. Since then it has been cultivated there. It is distinct from any other Japanese species of dandelion by its long-appendaged bracts and not incised leaves. The seedlings inherit all these specific characteristics.
このタンポポを有名な温泉リゾートである熱海で見つけ、小石川植物園に持って帰ったのは9年前のことである。以来そこで栽培されている。本種は長い付属的な苞 (角状突起) と切れ込まない葉という点をもってその他の日本産タンポポ属植物と明瞭に区別できる。これらの特異な特徴は実生個体にも維持されるものである。
【標本】
この記事で引用している植物学雑誌40巻479号 (1926) 576頁での記載においては、タイプ標本は東京帝国大学のハーバリウムに入っているはずなのであるが、東大のタイプ標本のデータベースではそもそもTaraxacum 属は1件もヒットしない。中井が収めた標本はタイプ標本として扱われていないようである。その一方で、科博のタイプ標本のデータベースでは下記の5点の小泉秀雄コレクションの一連の標本がシンタイプとして扱われている。
・85283の標本:伊藤T.氏が宇治山田市で採取したもの。
・85289の標本:橋本梧朗氏が遠江国小笠郡河城村で採取したもので、ヒロハタンポポとしつつ、北村氏のトウカイタンポポとも表記されている。
・85290の標本:橋本梧朗氏が遠江国小笠郡河城村で採取したもので、ヒロハタンポポの1形とメモ書きされている。
・85292の標本:橋本梧朗氏が遠江国小笠郡下内田村で採取したもので、ヒロハタンポポの1形とメモ書きされている。
・85293の標本:孫福匠氏が伊勢国二見町三津で採取したもの。
この5点いずれにも学名の表記は無い。科博データベースでは植物学雑誌48巻574号 (1934) 682頁を根拠としているが、小泉の当該文献でも “Taraxacum longe-appendiculatum NAKAI” として扱われており、科博の言う “Taraxacum longe-appendiculatum H.Koidz.” は誤りである。なお植物研究雑誌9巻8号 (1933) 491頁以降および植物研究雑誌10巻1号 (1934) 29頁以降の「日本産たんぽぽ属の研究 (其一) (其二)」でもヒロハタンポポは”Taraxacum longe-appendiculatum NAKAI” として扱われており、北村 (1957) のモノグラフでもヒロハタンポポは”Taraxacum longe-appendiculatum NAKAI” として扱われている。なお、この取り扱いはYlistでも同様である。つまり、科博のデータベースでシンタイプとして扱われているものは分類学上不適切な指定である可能性がある。東京大学のTaraxacum 属の配架から中井の標本を探すべきであろう。
https://type.kahaku.go.jp/TypeDB/list?cls=vascular&pn=1&facet=&refind=1&dispnum=10&VARIANT=1&c3_f=taraxacum&secIdx=0&ANDOR=0&DISPVIEW=matrix&chkCls=vascular&n1_f=&n2_f=&n3_f=longe-appendiculatum&n4_f=&n5_f=&n6_f=&n7_f=&n8_f=&n9_f=&n10_f=&n11_f= (科博データベース)

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