Polystichum amabile (Blume) J.Sm. var. chinense Rosenst. [Repert. Spec. Nov. Regni Veg. 13: 130, 1914.]
Varietas rhizomate (unico) breviore, suberecto, pinnis superioribus minus abrupte in pinnas apicis caudiformis transeuntibus, pinnulis postice brevius (non usque ad mediam) resectis, margine anteriore et exteriore minus profunde incisis, stipitibus, rhachibus, costis crebre paleaceis, textura coriacea a typo diversa.
China : Kuy-tcheu, Gan-chuen (P. Cavalerie採 1912年 No.4010)
この変種は単一の短い、斜上する根茎を持ち、地上部の葉は先端に向かって次第に尾状に細くなる。小羽片は基部側で短く切れ込む (中肋には達しない)。縁は浅裂し、葉柄、葉軸、中肋は鱗片で密に覆われる。質感は革質。以上の点で基本種 (*オオカナワラビ) と異なる。
[大陸系学説における分類上の変遷]
上記のように雲南省で採られた標本を基に基本種オオカナワラビの変種として1914年に記載された本種はSinensia 5(1-2): 46, 1934においてRumohra chinensis (Rosenst.) Chingと独立種として扱われた後、Revis. Fl. Malaya 2: 486, 1954においてPolystichopsis chinensis (Rosenst.) Holttum、Acta Bot. Sin. 10(3): 257, 1962においてArachniodes chinensis (Rosenst.) Chingと属の組み替えが行われている。
「日本のカナワワラビ属」 倉田 (1962) のオニカナワラビの項ではArachniodes simplicior (Makino) Ohwi var. major (Tagawa) Ohwi の学名を採用し、中国大陸では見出されていない日本特産種としながら、Rumohra chinensis (Rosenst.) Chingのタイプ標本の写真がこれに大変似ている旨指摘している。現行のFernGreenList ver. 2.0ではA. simplicior (Makino) Ohwi var. major (Tagawa) Ohwiは異名とされ、A. chinensis (Rosenst.) Chingの学名が採用されている。
ここで、Acta Phytotax. Geobot. 1(1): 90, 1932において和歌山県東牟婁郡旧高田村にて採られた標本を基に記載されたPolystichum simplicior (Makino) Tagawa var. major Tagawaについても言及しておく。なお、オニカナワラビという和名はこれが初出である。
Polystichum simplicior (Makino) Tagawa var. major Tagawa [Acta Phytotax. Geobot. 1(1): 90, 1932.]
Rhizoma breviter repens lignosum incrassatum ad 10 cm. longum, stipitibus emortuis dense obtectum. Stipes 30-50 cm. alti basi ascendenres incrassati supra sulcati, squamis inferioribus lineari-lanceolatis fuscis integerrimis apice sensim subulato-attenuatis, superioribus nigrescentibus e basi ovatis fimbriatis subulato-attenuatis, linearibus subulato-attenuatis.
Frond ovata 40-50 cm. longa 15-20 cm. lata acuminata, coriacea, supra atro-viridia, bibinnata.
Pinnae lineari-lanceolatae acuminatae breviter petiolatae erecto-patentia, pinnulis ovatis subfalcatis sessilibus vel breviter petiorulatis, acutis, aristato-serrulatis basi oblique cuneatis, biauritis, pinnulis extro-infimis pinnarum infimarum elongatis pinnatis vel pinnatifidis.
Sori ad medium costae et marginis pinnularum siti, indusio orbiculato interdum dryopteroideo.
Hab. 本州 : 紀伊国新宮近郊檜杖 (田代善太郎 タイプ) ; 山城国梅ケ畑村 (田川基二) ; 山城国Kiyotaki (田川基二) ; 山城国男山 (田川基二 No.306) ; 山城国清水 (Sisido-I.) ; 山城国京都吉田山 (小泉源一) ; 山城国京都Kurodani山 (Takagi-T.) ; 近江国三井寺 (Hasimoto-T.) ; 丹波国Minato村 (田代善太郎) ; 伊豆国Yugasima (Faurie No. 124)
根茎は短く横に這い木質で、太く、10 cmほどの長さ。古くなった葉軸の基部で密に覆われている。葉軸は高さ30-50 cmで基部に向かって徐々に太くなり、表面には溝がある。背軸側の鱗片は線形-披針形で褐色。縁は全縁で先端に向かって次第に針状に細くなる。向軸側の鱗片は黒褐色がかり基部は卵形で縁は毛状になって針状に細くなり、先端は線形で針状に細くなる。葉身は卵形で長さ40-50 cm、幅15-20 cm。尖頭で質は革質。向軸面は暗緑色で2回羽状複葉。羽片は線状披針形で尖頭、短柄があり、斜上して着く。小羽片は卵形でやや鎌状に曲がり、無柄か短柄があり、尖頭、芒状の鋸歯がある。基部は斜めに楔型となり、二耳状。最下羽片の外側第一小羽片は細長く、羽状に裂ける。ソーラスは中肋と小羽片の縁の中間に着き、包膜は円形で、しばしばオシダ属に似る。
[本邦学説における分類上の変遷]
大陸系学説のArachniodes chinensis (Rosenst.) Chingの学名の基となっているローゼンストックの記載文と、田川の記載文は特に矛盾していないように思う。もっとも、ローゼンストックの記載が非常に簡潔であるために、その差異を考察し難い。ただし、ローゼンストックの分類が1914年であるのに対し、田川の分類は1932年の仕事であるから、田川はこの2種を意識的に区別していた可能性を考慮しなければならない。田川はハカタシダの変種として本種を記載しており、同記載論文中の検索表において、葉面は2回乃至3回羽状複生で、葉面卵形、頂羽片を有するものをハカタシダ、葉面卵状披針形、鋭尖頭、頂羽片の無いものをオニカナワラビと分けている。そもそもハカタシダは1901年に牧野がホソバカナワラビの変種として記載したものであり、田川は1932の同一論文中でハカタシダを独立種として扱い、独立種としてのハカタシダの変種としてオニカナワラビを記載している。この点につき、「ハカタシダはカナワラビ (*ホソバカナワラビ) に似たものであるが、遙に硬質」とし、「根茎は短く、葉柄は相接して生じ、其の基脚が著しく膨れている」ことを以てホソバカナワラビから分離し、独立種として扱った上で、この一変形として、羽片が急に短くならないために頂羽片のないものをオニカナワラビとして扱ったとある。結局のところ、ハカタシダとオニカナワラビの差異について、田川は頂羽片の有無のみに着目していると言えよう。
その後伊藤洋がJ. Jap. Bot. 11(8): 579, 1935においてRumohra simplicior (Makino) Ching var. major (Tagawa) H.Itô、田川がJ. Jap. Bot. 33(3): 95, 1958においてPolystichopsis simplicior (Makino) Tagawa var. major (Tagawa) Tagawa、倉田悟がEnum. Jap. Pterid. 284, 339, 1961においてByrsopteris simplicior (Makino) Sa.Kurata var. major (Tagawa) Sa.Kurata、大井次三郎がJ. Jap. Bot. 37(3): 76, 1962においてArachniodes simplicior (Makino) Ohwi var. major (Tagawa) Ohwiと所属する属を転々と組み替えている。属の変遷自体はハカタシダとおよそ同じ流れである。泰はActa Phytotax. Sin. 9(4): 384, 1964においてこれらを独立種Arachniodes caudata Chingにまとめているが、現在のe Flora of ChinaではこれをA. chinensis (Rosenst.) Chingの異名として扱っている。
1914年のPolystichum amabile (Blume) J.Sm. var. chinense Rosenst.に由来する大陸系学説上の分類の変遷と1932年のPolystichum simplicior (Makino) Tagawa var. major Tagawaに由来する本邦学説上の分類の変遷は1964年のArachniodes caudata Chingの学名で統合を見、それに先行する1962年のA. chinensis (Rosenst.) Chingが優先することによってA. caudata Chingは異名となって、A. chinensis (Rosenst.) Chingの学名が本邦のFernGreenList ver. 2.0でも採用されているわけである。以上から、ハカタシダとオニカナワラビをそれぞれ独立種として扱う見解は大陸の分類であり、本邦の分類では伝統的にオニカナワラビはハカタシダの変種として位置づけられてきていたことが分かる。

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